感染対策とフレイル
2020年はじめから流行し始めた新型コロナウイルスの影響が現在まで続き、私たちの生活は一変しました。
皆さまも3密を避ける、定期的に換気をするなど新しい生活様式を取り入れながら、感染拡大の対策をしていることと思います。
さて、私たちの生活を一変させた新型コロナウイルスですが、今回は介護予防の観点から新型コロナウイルスとの付き合い方を考えていきたいと思います。
新型コロナウイルスは人から人へ感染するため、感染予防としての3密を避ける、食事の際の会話は避ける、不要不急の外出は自粛するなどの対策が推奨されています。
感染しないことが第一であり、このような対策は重要なのですが、この対策が長期間に続き、感染を恐れるあまり外出を控え過ぎると、動かない時間が増え、最近新聞などで目にする『フレイル』になってしまう可能性があります。
フレイルとは?
フレイルとは?
フレイルとは「虚弱」という意味です。
「虚弱」と聞くと、もう良くならない、治らないとマイナスのイメージを持つ人が多いかと思います。
そこで2014年に日本老年医学会は高齢者の虚弱を「フレイル」と提唱しました。
多くの高齢者は自立の状態からフレイル→要介護と進行していき、フレイルは中間の段階にあたります。
このフレイルの段階を早期に発見し、適切な対策を行うことで、要介護になることを予防でき、これまで送られていた生活に戻れることができるのです。
簡単に言うと、年齢を重ね衰えてきても、すぐに要介護の状態になる訳ではなく、フレイルの段階を経由するので、フレイルの段階を早期に発見し、適切な対策をすることができれば良くなるということです。
「虚弱」や「年齢を重ね衰える」と聞くと、歩くのが遅くなり転んでしまう、筋力が衰えるなどが思いつくと思いますが、これは「身体的フレイル」を指します。
この他にも社会との関わりが希薄になる「社会的フレイル」、気持ちが沈んでしまう、何をするにも億劫になる「精神心理的フレイル」があり、フレイルにはこの3つの要素が関連しあっています。
どうしたらフレイルになる?
どうしたらフレイルになる?
先述した3つのフレイルには関連があることが、様々な研究により明らかになってきており、社会とのつながりを失うことが、フレイルの入口であることがわかってきています。
社会とのつながりとは、友人と会い食事を楽しむ、地域のサークルに行き体操や趣味活動に取り組むなどがあります。社会とのつながりを失うと、それがドミノ倒しのように進んでいき、最終的には筋肉が衰え、歩けなく、動けなくなってしまいます。
3つのフレイルが関連しあうとは、サークルに行きみんなで体操をすることを例にとると、サークルに参加せず、みんなに会わなくなることは「社会的フレイル」、サークルまで歩いて行かなくなり、体操をしなくなることは「身体的フレイル」にあたり、2つのフレイルが関連しています。
さらにその場での仲間と会話をすることもなくなるので、「精神心理的フレイル」にも関連していきます。
3つのフレイルはそれぞれが独立しているわけではなく、互いに影響を与えあっており、1つのフレイルに問題が発生すると、他の2つにもつながっていき、そのままの状態を放置しておくと要介護状態へ進んでいってしまうのです。
フレイルにならないためには?
フレイルにならないためには?
フレイル対策には社会参加、身体活動、栄養の3つの柱が重要です。
3つの柱を三位一体で対策していくことが、フレイルを予防、またはフレイル状態から脱する唯一の方法です。一つずつ解説していきます。
社会参加
フレイルの入口である社会参加、つまり他者との関わりを持つことはもっとも大切な柱です。
約5万人を対象としたフレイルになるリスクを明らかにする研究では、①ウォーキングや体操などの身体活動、②趣味やサークルなどの文化活動、③ボランティアや町内会などの地域活動のうち、②・③の習慣のある人たちの方が、①の習慣のある人たちよりも、フレイルになるリスクが低いことがわかりました。
毎日ウォーキングや体操をしていても、文化・地域活動が少ないとフレイル予防としては不十分と言えます。
身体活動
社会参加のところで、毎日ウォーキングや体操をしていても、文化・地域活動が少ないとフレイル予防としては不十分と述べましたが、そうは言っても運動はとても重要なものです。
フレイルに限らず、認知症、移動能力が低下するロコモティブシンドローム、筋力低下を示すサルコペニアなど、多くの疾患、状態を予防するために、運動は必要不可欠です。
ポイントは、いかに毎日続けられるかです。
そのためには「○○しながら運動をする」「○○のついでに運動」意識を持ってみましょう。
例えば、「お皿洗いをしながら、つま先立ちをする」、「テレビを見ながら、太ももを高く上げる」、「椅子に座るついでに、その場でスクワットをする」など、生活の中に運動を散りばめられると運動は長続きします。
栄養
年齢を重ねると、筋肉量が減っていくことは皆さんもご存じかと思います。
なぜ、減るかというと、筋肉は「作る」と「壊す」を日々繰り返しており、年齢とともに「作る」力が弱くなり、十分に筋肉が作られずに壊される結果、筋肉量が減ってしまいます。
そのため、筋肉の材料となるタンパク質をいかに効率よく摂取するかが重要となってきます。
筋肉量が低下しないために、体重1kg当たり1.2~1.5gのタンパク質を摂取することを目標にしていきましょう。体重60kgであれば、タンパク質は72g程度摂れるのが理想となります。
たまご1個 | 6.2g |
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納豆1パック | 8.3g |
焼き魚一切れ | 17.8g |
豚肉100g | 21.5g |
新型コロナウイルスとフレイル
新型コロナウイルスとフレイル
ここまでフレイルの概要、フレイルになってしまう理由をお話してきました。
フレイル(≒虚弱)は自立と要介護の中間の段階であり、適切な対策を行うことで良くなることが可能です。
またフレイルの入口は社会とのつながりを失うことです。
一方、新型コロナウイルスは外出を控える、人と会うときには距離を取る、マスクをする、食事の際には会話をしないなどの感染対策が必要であると言われています。
もうお分かりですよね?新型コロナウイルスの感染対策をすることは、社会とのつながりを減らすこととなり、フレイルの入口に足を踏み入れてしまうことになってしまう可能性があるのです。
これは新型コロナウイルスの流行し始めた初期の段階から懸念されていたことであり、フレイルを提唱した日本老年医学会からも市民のみなさまへというお知らせが出ていました。
今もなお感染拡大は続き、依然として収まる気配がない中、札幌はこれから本格的な冬、雪のシーズンを迎えます。ますます外出する機会は減り、社会とのつながりが薄れていってしまいます。
次はそのような状況の中、気持ちを明るく保ち、限られた中での『できること』をお伝えしていきます。
家でできるフレイル予防
家でできるフレイル予防
社会とのつながりが薄れしまう中、『できること』は家の中でよく食べ、生活の中で運動に取り組むことです。また、直接会っては話すことは難しいですが、電話やメール、お手紙などでご家族、ご友人とつながる機会を持つことも大切です。
最後に、今回は2つの生活の中でできる運動をお伝えします。
まだまだ油断のできない日は続きますが、皆さんのご健康をお祈りしつつ、今回のお話を終わります。
ぜひ、コロナに、フレイルに負けないように自宅できる運動に取り組んでください!
1.スクワット
1.スクワット
腕、体幹、足の筋力のうち、歳を重ね最も大きく低下するのは足の筋力とされています。
足の筋力が低下すると、転倒の可能性が高くなるのはもちろん、自宅での階段の昇り降り、椅子からの立ち上がりなども大変になってきます。
スクワットに取り組み、足全体の筋力を強くしていきましょう!
良い方法
【1】 肩幅よりもやや広めに足を広げて、立ちます。(つま先は時計の2時と11時の方向にむけます。)
【2】遠くにある椅子に座るイメージで、おしり・腰をおろします。(膝がつま先よりも前にでないようにしましょう。)
【3】倒れない範囲までおしり・腰をおろし、ゆっくりと元に戻ります。
- ポイント
背筋を伸ばし、正面を見ましょう。
スクワットは膝ではなく、おしり・腰を下ろすことが重要です。 - 回数など
1日10回程度からはじめ、慣れてきたら回数を増やしましょう。
テーブルや手すりなどにつかまって行ってもよいです。
悪い方法
良くない、スクワットです。
良い方法と比べると、背中と膝が大きく曲がり、膝がつま先よりも前に出てしまっています。
この姿勢は腰、膝への負担が大きく、痛みが生じる可能性があります。
スクワットは膝を曲げるのではなく、おしりを動かすことがポイントです!
生活の中にスクワット
食事の際に食卓の椅子に座る前に!トイレのあとに!テレビのCMの合間に!
2.かかとあげ
2.かかとあげ
かかとを持ち上げる作用をもつのが、ふくらはぎにある筋肉です。
歩いている際の足を前に運ぶときに働く筋肉で、この筋肉が衰えてしまうと足が前に運びにくくなり、歩幅が狭くなり、転倒しやすくなってしまいます。
また、ふくらはぎの筋肉は「第2の心臓」と呼ばれ、下半身の血液を心臓まで押し上げるポンプのような役割も持っています。
ふくらはぎの筋肉が衰えると血流が滞るため、むくみなどのキッカケとなってしまいます。
歩くのはもちろん、循環系にも影響を与えるふくらはぎの筋肉を強くしていきましょう!
良い方法
【1】椅子の背もたれやテーブルにつかまり、かかとを上げます。
【2】この時、できるだけ足の指先に体重がかかるように、しっかりとかかとを上げましょう。
- ポイント
指先が曲がるくらいまでかかとを上げます。
ここまで上げられると、ふくらはぎ全体に力が入る感覚があります。 - 回数など
1日10回程度からはじめ、慣れてきたら回数を増やしましょう。
悪い方法
良くない、かかと上げです。
良い方法と比べると、かかとの上がりがわずかで、頭の位置が低いです。
しっかりと足の指先に体重がかかることで、背すじも伸び、効果的な運動方法となります。
生活の中にかかと上げ
台所仕事の最中に!テレビを見ながら!歯磨きをしながら!
※ 実際に行うときには、手すりなどにつかまる、後ろに椅子を用意するなどして、転倒に十分に注意してください。また現在通院している、または介護保険のサービスを利用している方は、実施する前に主治医やリハビリ技士に相談してから行ってください。